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DATA

所在地
京都市西京区 (市街化調整区域)
構 造
木造2階建 軸組在来工法
延床面積
120㎡
敷地面積
480㎡
08

-不便から生まれる豊かさの発見-

 

場所は京都市西京区の西部に位置する大枝地区。

山麓の東向き斜面地の高台に位置し、敷地からは京都タワーや大文字山、伏見桃山城など、市内が一望できます。

市街地から車で30分程度にも関わらず、市街化調整区域内ため周囲には田園風景や山林、地域特産の柿畑が広がる自然環境溢れるこの場所で、プロジェクトはスタートしました。

 

市街化調整区域では原則、開発行為や建築行為が厳しく制限され、基本的に建物を建てることができません。

しかし定められた条件をクリアすることで、一定の範囲内での建替などの建築行為を行うことができます。

(今回はこの条件をクリアすることができました)

 

正直なところ、市街化調整区域での建築計画はリスクが大きかったり、デメリットも多く、十分な調査が必要になります。

例えば、電気や上水道、下水道の最低限の生活インフラ設備は整っていたとしても、交通インフラが整っておらず、最寄りの公共交通機関までの所要時間が多く掛かる場所がほとんどです。

スーパーや教育機関なども少し距離があるために、どうしても車に頼った生活になりがちです。

また市街地に比べ地価も安く、担保価値が低いため、住宅ローンなどの融資が受けにくいというリスクもあります。

しかし、メリットが無いわけではありません。

限られたメリットですが、それが施主の希望と一致すれば他に代えがたい条件となります。

まずは地価の安さ。

市街地(京都市)で平均的な土地の坪単価は、¥60万~¥100万程度。これが市街化調整区域だと、¥40万程度(建替可能物件)と約半分くらいの金額設定とされていることが多いです。(諸条件により異なります)

同じ予算でゆとりのある大きさの土地を取得することができ、今回の施主の要望であった本格的なガーデニングや家庭菜園など居住【プラスアルファ】の楽しみを得たり、趣味を持つことができます。

そして何よりも周辺の自然環境の良さと京都市内を一望できる眺望、朝日を目一杯浴びることができる東向きの地形が、この敷地を選ばれた決め手となりました。

これらのメリットを市街地で実現することは難しく、市街化調整区域だからこそ得られる条件となります。

 

配置プランについて、敷地北側半分には元々建物が存在せず、この範囲に建築することができないのでガーデンスペース、家庭菜園、芝生スペースとして計画しました。

また、元々あった門や塀はそのまま残すことで、従前の周辺環境と調和するように配慮しています。

建物プランについては、眺望の良さを最大限に生かすため2階にリビングを計画し、どの位置からでも眺望を楽しめるように大開口の窓を設けています。

見上げの位置になるため、外部からの視線を気にする必要もありません。

1階は寝室、子供室、水廻りをまとめ、10帖程の広く取った玄関スペースがプライベートスペースとパブリックスペースの境界線を和らげています。

 

外観について、過度な装飾・色彩とならないように無彩色でシームレスな左官仕上をベースに、レッドシダー材の板張りのアクセントや軒天には杉材を使用しています。

軒、ケラバをしっかりと出すことで建物のバランスを安定させ、外壁を雨風から保護しています。

日本の住宅に深い軒、ケラバは必要です!!!

内装仕上には、ビニールクロスやシート系の材料は使用せず、しっくい壁、しっくい天井、無垢材フローリング(オーク材)など、弊社の特徴である自然素材をベースに、アクセントでタイルや

木毛セメント板などを使用しました。

キッチンもオーダーで製作し、モールテックスで仕上げるなどオリジナリティのある仕様となっています。

 

建物の性能や仕様、デザインに拘ることはすごく大事なことです。

近年までの住宅事情は、駅や市街地に近い利便性の良い敷地が良しとされ、地価が高騰し、需要に応えるために最低限の大きさに分割し供給されてきました。

そのために十分な敷地面積を得られず、周辺環境の選択肢が限られ、居住することだけが住宅の目的となっているような気がします。

もちろんそれで良いのですが、今回のプロジェクトで居住【プラスアルファ】の部分の大切さを実感しました。

 

朝日を浴びて目を覚まし、緑に水やりをし、樹木や菜園の野菜の成長を確認する。家にいても屋外にいることが多く、近所の方とも良いお付き合いができる。

季節の良い時期は外でバーベキューや焚火をして、夜には満点の星空や月を観賞し、暗闇の中で風の音、雨の音、虫たちの鳴き声の中で眠りに落ちる。

図鑑でしか見たことのない植物の発見や野生の生き物との遭遇。

 

とても刺激的です。

 

今後、日本は人口減少や空き地、空き家のさらなる増加、またコロナ禍もあり、物件の供給事情や居住スタイルは少しずつ変わっていくと思います。

家を建てようと思った時、リノベーション物件を探そうと思った時に、利便性や不動産の市場価値だけでなく【プラスアルファ】の部分を楽しめるような選択肢が増えるといいなと思います。

 

この’西長町の家’は、そんな想いを具現化した新しい郊外居住スタイルの提案型住宅となりました。